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1月27日(火)-たとえばエビのうま味とは-

 小生のエビ料理の好みは、車えびは焼き、パッチン(ウチワ)エビと伊勢エビは味噌汁、甘エビは生の刺身である。伊勢エビの刺身が旨いというのには首をひねりたくなる。 
 食物のうま味とは何ぞや。うま味には「旨味」や「甘味」があり、ヒトによっては「苦味」もうま味であり、程よい「酸味」もうま味であろう。場合によっては「臭味」や「渋味」もうまく感じるのであろう。小生の親父は鮒鮨(敢えて魚偏に旨を使おう)を「旨い」と言って食える人間のひとりである。小生も随分と昔に鮒鮨と「くさや」に挑戦したことがあるが、「ゲロ」ものであった。
 本論に戻って科学的な話になると、味覚は舌の味蕾で感知され脳の味覚野に伝達される。味には甘味、塩味、苦味、酸味の4基本味に、日本人が発見したうま味の5種類がある。それぞれの代表的な物質は、ショ糖、食塩、キニーネ、酢酸、グルタミン酸である。うま味成分は、昆布ではグルタミン酸、鰹節やイリコではイノシン酸、シジミなどの貝類ではコハク酸、シイタケではグアニル酸とされる。甘味を感知する味蕾は舌の先、酸味は舌の両側、塩味は舌全体、うま味は舌の奥に分布している。余談だが、辛味と渋味は味蕾ではなく痛覚を刺激するもので、唐辛子のカプサイシンと渋柿のタンニンが代表物質である。
 食物でうまいものは、やはり蛋白質である。蛋白はアミノ酸で構成されており、それには甘味系アミノ酸と苦味系アミノ酸がある。前者はグリシン、プロリン、アラニン、セリンで、後者にはロイシン、イソロイシン、バリン、チロシン、フェニルアラニンが代表的とされる。
 呈味という聞きなれない言葉があるが、これは味としての刺激を与えることで、この成分を呈味物質という。たとえば、ウニに含まれる呈味上の物質についてまとめると、①グリシン、次いでアラニンが甘味として関与。②ロイシンとイソロイシンを除くと甘味は増すが、収れん味が低下。③バリンを除くとウニ特有の苦味が減少し、味の強さと性質が変化。④メチオニンを除くとウニ特有の風味がなくなり、エビやカニに近い味となる他、後味が乏しくなり、淡白な味となる。
 前置きが長すぎたが、エビではどうなのだろうか。上記の甘味系アミノ酸の合計が多いエビは、車えび、手長エビ、ウチワエビ、伊勢エビ、甘エビの順である。意外なのは甘エビであるが、甘エビの「うまさ」はエビが含む水溶性のたんぱく質が持つ特有の「とろみ」にあるとされる。この「とろみ」を与える物質としては、貝類の旬の時に増加するグリコーゲン、デンプンなどが知れれている。またまた余談だが、カキ、アサリ、ハマグリなどの旬はグリコーゲンがたっぷり貯蔵された産卵前である。このグリコーゲンやデンプンは食味に「こく」あるいは「厚み」を与える。さらなる余談で、ホタテガイからグルタミンを除くとうま味の低下は元より、味の持続性・複雑さ・濃厚感の低下があるという。
 小生贔屓のウチワエビは科学的にも「うま味」が多いのが判明した。さらには、ここだけの「ウチワ話」ですが、バリンをはじめとした苦味系アミノ酸も含まれているのである。苦味系アミノ酸は伊勢エビにはなく、「厚み」があって「こく」のある味はウチワエビの勝ちなのだ。もう一丁余談だが、ビールの「こく」も苦味系アミノ酸に関連ありだ。
 一体いくつの「味」が登場したのか。これ以上御託を並べると「嫌味」になりそうなので止めよう。最後に「うまい」ものや「旬」ものを頂くときは、自然の恵み、漁師や農家の人びと、料理職人・・・に感謝をして、舌と咽喉の味蕾全体によく絡むようにゆっくり「モグモグ」と噛んで、胃に送り込むことである。そして、「しょうちゅうくれ」が「しょうちゅうグレ」になって、「何の味」だが分からなくならないことである。
 「後味」に、味蕾の3分の2は舌上にあり、残りの3分の1は軟口蓋、咽頭、喉頭部などの上皮に存在し、これが水や二酸化炭素によく反応するのだ。小生はワザと泡沫(あわ)を立てたビールが好みだが、一理あるのだ。「こく」は「厚み」、日本語は本当に変幻自在、優しい言語ではないか。「厚身」が「こく」、そんなに悪い気もしないが。サー、ニシタチだ。

追:伊勢えびの味噌汁が「うまい」のはエビミソと殻全体から出るエキスのためでしょう。時間があれば、研究しときます。とりあえず、水と味噌の入れすぎには要注意。

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