1昨日の金曜日は午後7時半からのラジオ収録であった。いつもは水曜日だが、都合で早まった。棚多獣医師のデビューの日である。
「ペット・ラジオ診察室」が始まり、9月で半年目に突入する。準備が結構大変なので、その一部を紹介しょう。まず、2回分の放送収録が終えると、数日は何も考えずに、もっぱら「焼酎飲み」に専念する。収録の10日前頃から、テーマを2つに絞り始める。1つのテーマについて勉強しながら、残り1つのテーマを模索する。テーマにもよるが1つにつき、5~10時間の下調べを要する。間違いのないよう、また出来る限り最新の知識を伝えるには、たかが5分の放送時間であるが、そのくらいの手間を費やさなければならない。そして、収録の前日か当日の朝までに担当のアナウンサーに原稿をファックスする、という手はずである。
ところが、切羽詰まった前日や当日には何かが起こる。今回は診察終了間際の6時過ぎに、「犬が妻楊枝に刺した焼き鳥をそのまま飲み込んだ。」という電話。近くの団地なのですぐに来てもらい、「16歳の高齢で、麻酔のリスクが有りますが、内視鏡で取り出すしかないですね。」と承諾を得て、1時間弱で任務完了。7時半に来られたアナウンサーには30分近くも待ってもらって、収録開始。1番手は小生の「ノミの生態とノミを介して犬、猫に伝播する疾患」。通常1回リハーサルをして、2回目が本番だが、時間超過でこのたびは3回行う。二番手は今回初登場の棚多獣医師である。テーマは「犬、猫の嘔吐・下痢症-特にウエルチ菌とカンピロバクターについて-」である。いつもはしゃべり過ぎるくらいの彼女だが、声が上ずり明らかに緊張しているではないか。5~6回も繰り返しのNG。別のテーマで小生が話そうかとも考えたが、さすがのアナウンサー。根気強く、話しの順序と結論を的確に導き、見事に成就。終わりには、彼女の緊張も大分解(ほぐ)れた様子であった。有難いことである。
彼女も相当に勉強していた筈だが、「本番では緊張して何を言っているのか、分からなくなりました。」との感想。プロは、「自分の本職では恥をかけない」という本能に、苦しむのである。その放送日は8月20日の木曜日、午前10時35分頃である。放送内容をその日の朝までにホームページの「ペット豆知識」に掲載しなくてはならない。「診療の方が楽だ」なぞと言わぬよう、「継続は力なり」の精神である。
収録が始まる直前、今度は夜間救急から、「団子串を食ったラブラドールが、そちらに(本院)向かいます。」との電話。収録の終わった9時半から、全身麻酔をかけ、内視鏡で無事摘出。スタッフが帰って行ったのは11時過ぎであった。病院の看板を出している以上、「診療と救命が第一」である。そのためにも、人間なかなか難しいことだが、「備えあれば憂いなし」で、日ごろの勤勉と精進が欠かせない。自戒。
追:いつものことだが、内視鏡で異物を取り出した瞬間の、スタッフ全員の歓喜の「拍手喝采」には、術者としても感極まる思いである。