●「熱中症の怖さ」
梅太郎「主人先生よ、ついこの間、フレンチブルドッグの熱中症が来院してドタバタしていたようで・・・・・・」
主人先生「そうなんだよ、已むに已まれぬ理由で外に繋いでいたフレンチが、ちょっとの時間のつもりがつい2時間ちかくも放置していなんだな。そうしたら起立できないどころか意識もはっきりしないまでに深刻な状況に陥っていたんだ。急いで近隣の動物病院に電話したのだが、生憎ちょうどその日は盆の真っ只中で、どこも診てくれなかったのじゃ。それで年中無休のTACの電話が鳴ったのじゃ」
梅太郎「熱中症は死に直結する救急の最たる病気じゃないですか?」
主人先生「そうじゃな、41度の体温が2時間続いたり、42度だと30分で脳をはじめ全身の細胞が不可逆的にダメージを受けて再起不能に陥るのじゃ。今年の8月10日~16日の1週間だけで熱中症で死亡した日本人は30名なのじゃ。救急搬送車はなんと1万2804人じゃったそうな。コロナによる死亡者数に匹敵する人数じゃな。ペットの熱中症の恐怖も今では広く認識され、多くの家ではクーラーが大活躍しているのじゃ。症例も大分少なくなったのじゃがな」
梅太郎「熱中症では何はともあれ全身を冷やすことが肝要なんでしょ?」
主人先生「そうじゃ、先ずは水道水を全身にかけるか、風呂の残り湯につけるかじゃな。氷を直接当てたりバスタブに氷を加えるのは止めた方がいいな。30度位の水温がお勧めじゃ。夏の水道水は30度前後じゃからの、水道水をかけてやればいいのじゃ。それ以上に低温だと皮膚の毛細血管が収縮して却って体温の放出が阻害されるのじゃ。それでも頸(頸動脈)と股(大腿動脈)をアイスノンを直接当てるのは効果ありじゃがな。おうそうそう、そのフレンチブルじゃがな、実は都城からの電話でな、先ずは水道水を全身にかけて、車の中は冷えたタオルで全身を包み、クーラーをバンバンに効かせて来院するように伝えたのじゃ。TAC到着時は体温はちょうど40度で、意識は朦朧の回復中じゃった」
梅太郎「熱中症の予防法ってのはクーラー以外にあるのかな?」
主人先生「そうじゃな、フレンチなどの犬種は短頭種症候群といって気道に問題があるからな、外出時には温度設定の確認は欠かせないな。それに夏場で注意がいるのが水分補給じゃ。これはヒトでのデータじゃがな、気温が30度以上の場合、1度上がるごとに不感蒸泄は15~20%も増加すると云うのじゃ。クーラーを入れないで室温が35度にもなれば不感蒸泄は平常の倍加する計算じゃ。ヒトの熱中症は室内でクーラーを入れてない場合がほとんどらしいぞ。これから考えなくなくちゃならんのは十分な水分を摂ることじゃ。犬は少しでも暑いとパンティングが酷くなって不感蒸泄も増えるし、呼吸筋の発熱でぐんぐん体温が上昇し、割りに簡単に熱中症を発症するからな。ましてや短頭種のパンティング時の不感蒸泄量はヒトの比じゃなかろうよ」
梅太郎「そうですか、クーラーばかりでなく、いつでも新鮮な水を与えてもらわんといかんですね。ところで主人先生よ、この間のフレンチでは静脈点滴以外にも何やら技を使っていたようで・・・・・・」
主人先生「よく観察しているな、梅太郎君よ。そう楽には体温が下がってくれないからな、常温のリンゲル液を注腸したのじゃ。要領は浣腸と同じじゃからな、極簡単じゃ。体温の低下ばかりか脱水の補正にも役立つしな。まあ運よく救命できた症例じゃったな。翌日も来院してもらい血液検査をして血小板が正常の3分の1まで減少していたが、最悪の多臓器不全にもDIC(血管内凝固症候群)にもなっていなかったからな、胸をなでおろしたよ。熱中症は次の日に血小板が極端に減少していなければ助かるからな。梅太郎よ、お前は大丈夫だよ、TACのスタッフ皆で気を付けているからな。でもな塩分多めの○○がり○のもらい過ぎは禁物じゃな」
8月27日。