●「城の崎にて-後篇-」
主人先「そしてな最近では一度読んだ本を又買って来たんじゃ。それも数十ページ読んだところで何か変であることに気づいてな。耄碌したもんじゃよ」
二太郎「それはひょっとしたら、今話題の軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)ではないですかわん? 本格的な認知症の前段階らしいじゃないですか?」
主人先生「そうじゃな二太郎君よ、最近の犬にも認知症が普通にみられるからな。君は知らんが先々代のベルという名の雑種犬はな、18歳まで長生きしたがな、最期の2年間は認知症で頑張ったがな。重症の認知症になる前の16歳か17歳まではな、吾輩がな午前様に帰ってもな、いつも玄関のガラスに映る尻尾の影が揺れていたからな、何時でも迎えてくれてな。懐かしく、今も涙ものじゃ。でもな家の細君も吾輩以上に物忘れが酷いような気がするからな、年相応かもしれんぞ」
二太郎「そうですか、先々代のベル様は主人先生を朝方までも迎えてくれたですかわん。この世の酔払い親父はそういう情けに弱いのですわん? 二太郎も見習わなくちゃいけないわん?」
主人先生「まああ、ペット環境もこの20年で随分変わったからな、そこまで忠犬しなくても気にならんぞ。それよりも昼間の番犬就労の疲れを癒やしてくれよ。ところで今回のテーマじゃが、何じゃったかな? そうじゃ、読書の秋じゃったな。余命と認知症を鑑みながら、本の選定と作者の意図をよくよく心して挑まないと、ただの時間潰しに終わってしまうという教訓じゃな」
二太郎「それが結論ですかわん、安心しました。暇な秋の夜長、僕わんに構い過ぎられても困るわん。呑みに出かけた夜は、どうか静かに布団までそろそろと摺り足でお願いしますわん。でもオミヤはサガリにハラミにギアラにガツに地鶏モモでお願いしますわん。一切(片)れずつでOKですからわん」
主人先生「分かった分かっておるぞよ、喰う時はな君らのオミヤを考えながら呑んでるからな。でもなやっぱり吞兵衛親仁はな、ベルのように朝方でも一声も吠えずにな、玄関のガラスに揺れる尻尾を映して欲しいのじゃな」
完。9月28日。