犬・猫の病気の数は一体全体いくらぐらいあるのだろうか。真剣に考えたことがないので、いつか時間があるときに科目ごとの有名成書の索引を調べて、カウントしなければならない。
病気は外耳炎や下痢など、毎日のように嫌になるほど診察しなければならないものもあれば、月に1例、半年に1例、年に1例、・・・・・というように、疾患名によりバラバラである。よって、10年に1回しか遭遇しない症例もあり、生涯1度もお目にかかれない症例も少なくない。このたび夜間病院で学生時代を含むこの30年の獣医人生ではじめて遭遇できた症例があった。
その病気とは表記の病名で、胎仔期での脊椎の分離が正常に行われず、くっついた状態を呈する。先天性疾患であり、後天的に癒合が起こったものではない。”normal”block vertebrae とは、仙骨のことで、3つの椎体(仙椎)がくっついたままなのが正常である。骨盤との安定した固定のためであろうが、不思議である。
フレンチ・ブルドッグによく見られる(正確にはほとんどの個体で大小の異常あり)「Hemivertebrae」も先天性疾患で、これは、長方形であるべき脊椎が蝶々のような形になり、変形が重度なものでは背部痛や歩様異常などの神経症状を呈する。
我々が「見たこともない病気」に遭遇した場合、”どげんかせんといかん”という、職業気質と言うか、診断本能が喚び起こされる。が、心配御無用、「Textbook of Veterinary Internal Medicine」という心強い味方(御方)がある。小生の経験では、迷って壁にぶつかった時、この成書に記載が無かった例(ためし)がない。
しかし、いつも思い知らされるが、受精から細胞分裂、そして誕生、一体どのようなメカニズムで分化が進展していくのか。遺伝子と神の成せる業には敬服の至りである。家族をはじめ、ちょっとの巡り合い(邂逅)まで大切にせねば、罰が当たりそうである。