事業主。分かりやすく言えば、「会社の社長」。現在の「会社法」では従業員が社長1人でも会社は会社、社長は社長である。(2005年の会社法では株式会社で「一人会社」が認められている。以前は7人の株主=出資者がいてはじめて「株式会社」と称した)
サラリーマンから見ると、「社長」は羨ましいらしい。そこで今回は、ある「動物病院の事業主」、すなわち社長兼獣医師の「資金繰り」について、ちょいと暴露してみよう。
動物病院は「場所」が重要であるからして、裏通りは避けたい。角地も誉められない。必然とそれなりに坪単価が高くなる。借金の恐れを知らないこの院長は坪45万円を超える土地を50坪購入。不動産手数料(金額の6%を買い手と売り手が折半)や登記費用(約20万円)も馬鹿にならない。病院本体の建設費用は坪当り約70万円であるから、建坪が40坪であれば、2800万円。当然、土地・建物共に固定資産税も毎年徴収される。そしてレントゲンや超音波、血液検査機器、内視鏡、手術器械一式など設備費が約3000万円。それに運転資金を加えて、ざっと約1億円の投資である。
さあ、計画はできた。銀行もしぶしぶ融資してくれるという。
では銀行の金利はいくらだ。1億円の融資を受け、(年)金利3%で返済期間を10年とした場合の、10年間で銀行に支払わなければならない金利の総額は15,872,893円(支払い総額は115,872,893円)となる。返済期間を20年にした場合には元金と利息を合わせて133,103,423円となる。
10年も経つと検査機器のガタが来た。買い替えを余儀なくされた。リースが終了する開院6年目ころには、新しい高性能の器械が欲しくなり、ほとんど買い換えた。15年もすれば社長の体にもガタが来ている。
この獣医社長。開院15年目にして、はじめて、今までの「経営」を冷静に総括してみた。あと5年も経てば、今度は「建物本体にもガタが来て、最終的に残るのは「土地」だけ」、かと・・・・・絶句した。
借金がなくて商売をしている人間は少ない。いやほとんどいないかもしれない。裏を返せば、借金が仕事に張りを持たせる。もっと言うなら、借金がなかったら仕事なぞしない。トヨタは無借金だろうが、小生の周りで、無借金経営は医者ぐらいだろうか。皆、自分の給料からせっせと借金を払っている。「亀」さんに、「借金が終わるまで法人税は勘弁してくれ」と、お願いしたいくらいだ。法人税や所得税、住民税、国民健康保険料、固定資産税はもとより、銀行の金利や借金のかたの生命保険料、リース代・・・・・・・・・・、本当に大変だ。これが事業主というものだ。
しかし、痩せても枯れても社長・事業主である、この獣医にも誇りがある。設備投資で銀行に金利を払い、利益を出して法人税も納める。国民健康保険も最高額(年額65万円)を支払い、雇用も20人を超える。手元に金が残るはずもない。これにも懲りずにまた借金をする。確かに「借金が出来るうちは花」かも知れぬが、今の時代、「借金は貯金」とか「借金は財産」なぞとはとても言えない。クランケ(Kranke)がいてくれればの話で、感謝、感謝である。が、ちょいと微妙な綱渡りでもある。
「何かオモシロイ事はないか」と、この獣医は常に頭を巡らす。「設備投資」と「借金」こそが、最大の「納税」と裾野の広い「社会貢献」であることを確信して・・・。
「ニシタチ」を偉そうに闊歩している「親仁」達を見かけたら、十中八九、借金が歩いていると思って違わない。借金もぐれの、呑んだくれの、一人歩きの社長と思わず、見えを張って税金を払っている、哀れだが、国のために身を砕いていると思って下され。
要は、「金は使わなければただの紙切れ」で、「使って回せば」、いずれ老後の保障や福祉、教育となって自分に還ってくることを解せないのは、いかにも愚かというものだ。「金は天下の回りもの」とはよく言ったものだ。
久しぶりに真剣な話題でした。「完」。