●「三方良し」をわれわれの業種に当てはめるなら、「売り手良し(動物病院=自益)、買い手良し(飼い主=客益)、世間良し(社会=公益)」となりましょう。まずは自益について公益社団法人である宮崎県獣医師会との関わりようについて述べなければなりません。自益とはわれわれ獣医師がそれなりの収益を確保し共に栄え社会的地位を上げることです。それにはまずをもってある程度の価格設定を共有しなけらばなりませんが、これは世間でいうところのカルテルに該当しかねません。むろんカルテルは独禁法で禁止されていますが、不当廉売ともなれば話は真逆です。不当廉売とは、「商品や役務を不当に安い価格で継続して販売し、他の事業者の事業活動を妨げる行為。」であり、これも独占禁止法で禁止されています。いわゆるダンピングのことです。これは宮崎市郡の獣医師会に限ってのことかもしれませんが、宮崎市郡ではふた昔の前から、たとえば混合ワクチンの料金を決めると、決めた翌日から1000円安くする病院が常にあり、そのことが常態化していました。わたしも当時の市郡獣医会会長に、不当廉売の連鎖を阻止できないものかと直談判したものです。その会長曰く、「もう何十年も続いているので、それは無理でしょう、諦めなさい」と。その会長は元将校の軍人上がりで立派な人でしたが、「どうにもならん」と苦悩していました。カルテルとダンピング・・・・・・どれも独禁法違反ですが、現実にはそれなりの価格帯を暗黙の了解で設けることは・・・・・・どの業界でも存在することではないでしょうか。わたしが宮崎市郡獣医師会に怒ったのは、「ある病院の去勢手術よりも避妊手術が安い病院がある。ある病院の避妊手術よりも帝王切開が安い病院がある」・・・・・・これも当時の会長(前述の会長とは別人)に直訴しました・・・・・・「最低価格を考えてくれ」と。「そうでないと麻酔事故や術後の感染など動物に不利益な事態が生じかねない」と。その時の会長の応えは、「自由診療だから安くてもいいのではないか、勝手でしょ」・・・・・・でした。不幸なことに、宮崎では役員など上に立つ人ほど、このような考えの持ち主なのです。持つだけなら結構毛だらけ猫灰だらけなのですが、決まってこの輩はその実践者でもあります。低価格は客益に沿うものでしょうが、それは最低限の獣医療が守られた場合のはなしです。同時に、低価格は病院の収益に大きく関係しますから、従業員の給与や福利厚生、病院の設備投資などに直結する大問題です。つづく。5月10日。
●獣医師会に入会する訳・・・・・・と言いますか、入会せざるを得ない理由があります・・・・・・少なくとも最近までは入会しないと不利益が生じていたのです。では、獣医師会員であるメリットとはなんでしょうか。
①まずは非会員だと狂犬病注射を打つことがことができないとされていました。これに対して何十年も前から他県(福岡や岡山県)では裁判も行われたくらいであります。狂犬病は県知事(宮崎市などの中核都市は市長)が獣医師会に依託し、獣医師会が会員の獣医師に限って認めるというものでした。裁判の論争点は、会員でなければ狂犬病ワクチンが接種ができないのか・・・・・・ということでしたが、結果は会員でなくとも可能という判決でした。これにより、福岡や岡山を先頭に全国各地で獣医師会に反旗を翻す獣医師が増え、現在に至っています。福岡の一部では50万円もの入会金を納めなければ狂犬病を打てない・・・・・という地域もあったのです。宮崎でも、ある地域の獣医師会は過去に多額の入会金を強要していました。要は、獣医師会員でなければ狂犬病注射ができないのではないか・・・・・・さらに言えば獣医師会員でなければ(あの動物病院では狂犬病注射を打ってもらえないから)お客に敬遠されるのではないかという危惧を生んでいたのです。実際、そのことについての相談が私のところにも直接あるいは人を介して数件ありました。
②獣医師会員でなければ獣医師会が主催する学会や講習会には参加も発表もできません(これは当然でしょう)。さらに獣医師関連の研究会にも獣医師会員でなければ入会できないということもありましたが、現在のように獣医師会に入会していない者が多い状況では、(そんなことを言っていたら)研究会の運営ができない状態(人や金が集まらない)が生まれました。然るに獣医師会員であろうがなかろうが関係なく自由に情報を仕入れることができる時代になっているのです。
③これもどの団体でもそうでしょうが、人によっては役職が好きな人間がいます。獣医師会も御多分に洩れずそうゆう輩が全国に居まして幅を利かせたがるのですな。つづく。5月8日。
●ここでひとつ、重要なことを言い添えていなければなりません。獣医師会がそのようにして貯め込んだ額は億単位です。宮崎県獣医師会の所在地は宮崎市内(宮崎市広島1-13-10畜産会館3F)にあります。私が40年前に知ってからそのままの場所で、県の畜産会館の一部屋を間借りしている状況です。。鹿児島など他県では自前の獣医師会館を建て、そこで研修や講習会を実施しています。宮崎県獣医師会の講演や講習会は、大学やAZMホールなどの施設を利用しているのです。獣医師会が長年にわたって貯め込んだ億単位の金がどのような事業に使われるかが問題なのです。近江商人の商い心得に「三方良し」(「さんぼうよし・さんぽうよし」)という言葉があります。「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の三つの「良し」で、売り手と買い手がともに満足し、また社会貢献もできるのがよい商売であるという・・・・・・有名すぎるフレーズです。獣医師会に限らず、多くの業界団体は、自分たちの利益を守ることも当然ながら重要ですが、お客さんやその他大勢の人々にも同じくらいの気遣いが必要ということです。それなくして獣医師会を名乗る権利はないのです。「自益」ばかりでなく、自益以上に「客益」、そして「公益」を常に念頭に置くべきなのです。つづく。5月7日。
●ついでながら・・・・・・ではなく、ついでだから是非、獣医師会の譚をしましょう。断っておきますが、これらのことは宮崎県獣医師会に限ったことではない可能性が多々ありますから、そのつもりで読んで下さい。獣医会には年会費というものがあり、開業医の場合、確か年に5万円ほど払ったかと記憶しています。これは狂犬病の手数料から差っ引かれます。狂犬病注射1頭当たりの獣医師会の純収入(純利益)は830円(決算書に基づく)とありますから、自分の病院で1000頭の犬に狂犬病ワクチンを接種すれば83万円を、その個人病院が獣医師会に上納したかたちになります。10年で830万円ですから、50年同じ状態なら、CTスキャンが導入できるということです。集合注射を含めて500頭接種している獣医師がいるとすれば、40万円超の上納です。麻酔の気化器が買えますし、5年ともなれば立派な麻酔モニターが購入できます。獣医師の反乱が起きてもなんら不思議ではありません。起きないのが不思議なのです。つづく。5月7日。