●犬のお値打ち
▼バブルの頃の繁殖犬のお値段は、文字通りの目の玉が飛び出るくらいのものでした。アメリカンチャンピオンのゴールデンリトリバーなんてのは数千万円でしたから、家一軒の値打ちでした。一回のお産で10頭近い子犬を生みますから、1頭あたり百万円として2回のお産で元が取れる計算になります。歌の文句じゃありませんが、そんな時代も過去の現実にあったのです。
主人先生「二太郎君よ、君はどこで生まれて何処で売られていたか、記憶にあるかい? 5年も前なのでそんなのもう忘却の彼方なんて云わないよな?」
二太郎「おぼろげだけど、東京の地下鉄銀座線の上野寄りの小さなペットショップにいたと思うよ。たしか田原町駅傍だったかな。おいらよりも後から入ってきた子犬が次々に買われていくのに、おいらは3カ月も売れ残っていたもんね。失礼ながら『この犬、まだ売れ残っているよ』とか、『この犬、まだいるけど、犬種はスピッツかね、まさかパピヨンには見えないけどね』・・・・・・なんて客は言いたい放題だったからね」
先生主人「そうらしいね、東京にいる知人がペットショップを通るたびに君を見に店にわざわざ入って、『まだいるの?』・・・・・・と悲嘆し、もしかしたら今、先生の家には犬が死に絶えて3年経つからそろそろいいんじゃないかと打診してきたのが君を飼い始める突端だったんだ。その時の君は、毛量が乏しく痩せで見るからに貧相だったな。とてもパピヨンには見えなかったもんね。悪くは現実にはいないけど白黒のスピッツ、良くてスタンダードチワワってとこだったね」
二太郎「そうだったんか。週を数えるに従って、僕の値札は上書きされて5千円ずつ安くなっていったんだけど、どこか欠陥犬と思われたのか、一向に買い手が現れず、悲嘆の毎日だったもんね」
主人先生「つい最近もバブル並みの犬のお値段だがね。たびたび改正される動物愛護法では、販売までの日齢が延長されたり、マイクロチップの装着(3年以内の施行)、そのほかの飼養や管理も厳しくなった分、ブリーダーや販売店の経費負担が増したからね。30万とか40万はざらの相場ということだ」
二太郎「そうか、それからするとおいらの値打ちは最高でも並みのパピヨンの3分の1と云うことか?」
主人先生「落胆するなよ、二太郎君。栴檀は双葉より芳し・・・・・・の犬もまれにいるけど、多くは氏より育ちだからな。元手が少ない分、過剰な馬鹿可愛がりはしないから、問題犬にはならなかっただろう。人間の子育て同様、甘やかしは禁物だからね。でも躾はきっちりやったつもりだよ」
二太郎「おかげさまで病院のスタッフからも可愛がられているから、家人にそれこそ大感謝だけね。今5歳になったばかりだけど、これからもよろしくお願いします。安物買いの大損なんて揶揄されないように良い子でいますから」
主人先生「石も磨けば玉となって光るってことか。いかんいかん、これも犬馬鹿じゃな。これからも即(つ)かず離れずのペットディスタンスで行くからな、よろしく」
(完) 6月2日。