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江戸にみる「美しい日本」・その3(「江戸しぐさ」)

  「三方よし」とは「売り手よし、買い手よし、世間よし」のことを言う。近江商人の商売訓である。

  その他、大阪商人にも商売訓なるものが多い。幼少の時から、日々何かにつけて、事あるごとに、周囲から口喧(やかま)しく言われたのでろう。正(まさ)しく商人道教育と言われるものである。幾つか挙げてみよう。

  ①いつまでも有ると思うな親と金、無いと思うな運と災難:
   「果報は寝て待て」ではトロイ(鈍く、愚か)。仄かな、
   チョッとしたチャンスを目敏(聡)く見逃すな。
  ②商いは飽きない:
   飽きることが無いように、常に種々の方策を練るべし。
  ③人の行かぬ道に花有り:未開拓の分野が狙い目だ。
  ④商は笑にして勝なり:嫌なことがあっても毎日ニッコリと。
  ⑤商人と屏風は曲がらねば立たぬ:低姿勢で、謙虚に。
  ⑥3つの掛け算:他人、親に対して「心配・迷惑・不幸」をかけるな。
  ⑦実印の軸はツルツルでないといけない:
   安易に保証人などにならぬように。3回まわして捺印のこと。
  ⑧親が子供に資産を残すのが「子孝行」。などなど・・・。

  
  江戸にも「江戸しぐさ」なるものがあり、江戸期の商人の生活哲学・商人道として、主に人伝(ひとづたい)に綿々と継承されているものだ。「商人(あきんど)しぐさ」とか「繁盛しぐさ」とも呼ばれた。

  現在の商売人の心得として通用するばかりでなく、教育論としても注目され、次第に脚光を浴びつつある。代表的な「江戸しぐさ」を挙げてみる。

  ①「往来しぐさ」:会釈をしての[肩引き]、[傘かしげ]、それに最近の公共広告機構のCM(Commercial message)で有名となった「こぶし腰浮かせ」。
  ②「三脱の教え」:初対面の人に「年齢・職業・地位」の3つを聞かない。身分制度を意識させず、相手を思いやる、人を肩書きで判断しない、何事にも捉われないなどの理由による。
  ③「時泥棒」:断り無く相手を訪問し、又は約束の時間に遅れるなどして、相手の時間を奪うのは重い罪にあたる。時間にルーズ(loose)な「日向時間」は経済振興には以(もっ)ての外で、御法度である。
  ④「三つ心、六つ躾、九つ言葉、十二文、十五理で末決まる」:現代人は3歳ごとにこれほど成長しているだろうか?。
  ⑤「お心肥やし」:読み書き算盤は勿論だが、それ以上に人格形成が重要である。
  ⑥「打てば響く」:当意即妙の掛け合いで、初対面で相手を見抜く眼力を養う。
  ⑦「指きりげんまん、死んだらごめん」:げんまん(拳万)は拳固(げんこ、拳骨)で1万回打つの意。嘘をついたら「針千本飲ます」と同意で、死を覚悟での約束だ。

  小生の実家は先祖累代、正真正銘でお墨付きの呑(どん)百姓に近い農家である。一方小生の相方の実家は商いをやっており、2年前に他界した義父には「商売」について善く教わった。相反する思考回路が必要だ。

  商売をしていない一部の人間は、商売という言葉や商売人を訳も無く忌み嫌う性質が有る様に思う。「楽をしてぼろ儲け」の印象でも根強くあるのだろうか。

  これからの多難の御時世、幼少より真っ当な商人道を習得することで、難局を乗り越えられることも多々あろう。「商売人の家訓」と過小に考えず、真っ当な処世の術(すべ)として活用されるべきである。事に触れて、子供に言い聞かせてもらいたい。

  小生も何か事業を起こす場合は、「世間よし」を肝に銘じるよう心掛けるつもりだ。世間に歓(よろこ)ばれ、世の中が多少でも良くなると確信できれば、先は明るい。   
  
  つづく

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