コンテンツへスキップ

「宮崎牛」の将来は本当に大丈夫なのか。

  この度、めでたく「宮崎牛が日本一になった」と、JA宮崎経済連はじめ関係者は大喜びだ。県知事に至っては挨拶の壇上で涙を見せる有様だ。宮日では特別紙面「日本一・宮崎牛」で祝った。元旦の新聞を手に取ったような思いで一瞬驚いた。

  紙面によると「第9回全国和牛能力共進会」が去る10月11日から4日間、鳥取県で開催され、38道府県から約500頭が参加。宮崎は種牛、肉牛の二部門九区分に28頭を出品。うち七区分で優等首席を獲得。もっも優れた種牛と肉牛に贈られる「内閣総理大臣賞」も両部門で受賞した、とのことだ。

 平成17年度の宮崎県の肉用牛(繁殖牛、育成牛、肥育牛の総計)の出荷頭数は総数で7万8800頭で、うち県内が57.6%、県外が42.4%という。同じく子牛の出荷頭数は7万3797頭で、内県が53.4%、県外が46.6%という(2007年度)。県外の出荷先は雌の子牛では1位が三重県、2位が東京、3位が佐賀県、一方の雄子牛は1位が佐賀県、2位が熊本県、3位が岐阜県である(より良き宮崎牛づくり対策協議会・みやざきひむか学ネットHPより引用)。宮崎の肥育素牛が松坂牛や佐賀牛に”化けている”のが分かる。

  「宮崎牛」の定義は・・・?。よく聞く言葉だが、A5、A4等級なるものがそれだ。アルファベットのABCは枝肉(屠畜後、頭や皮、内臓の一部を取り除いた骨付きの状態)の歩留まりを示す等級であり、歩留まり率が62%以上がA、58~62%がB、58%以下がC級である。アルファベットの後に付く数字は牛脂肪交雑基準(ビーフ・マーブリング・スタンダード、No.1~No.12の12段階)、牛肉色基準(ビーフ・カラー・スタンダード、肉の色沢、No.1~No.7の7段階)、牛脂肪色基準(ビーフ・ファット・スタンダード、脂肪の色沢と質、No.1~No7の7段階)、肉の締まり及びきめ(No.1~No.5の5段階)の4項目のうち最も低い等級で示す(1~5の5段階)。Aの5等級が最高級で、次がA4等級の枝肉である。「宮崎牛」はA5が20%、A4が80%で全出荷量の約3%と僅かだ。A3以下は「国産黒毛和種牛肉」となる。

  小生の実家も物心ついた頃から現在まで和牛の繁殖を行っている。中学生の頃は2頭の親牛とその仔が居た。帰宅すると鎌で土手や田んぼの畦の草を刈り、ハミ(牛の餌のこと)を手カッター(後に動力カッターを購入)で切り、肥をたてる(牛舎の掃除)などの牛の世話を、殆ど毎日した。中学3年の卒業式の予行練習では、「家の手伝いを良くした」とのことで全校生徒の前で起立させられた。不意の事で何事かと思ったが、自然と涙した記憶がある。牛は当時生後10ヶ月ほどで競り市に出された。セリの1ヶ月前になると2キロの運動をした。現在中学生が牛を「散歩」させていたら、テレビものだろう。セリの前日は全身シャンプー、当日は朝5時から牛の体をきれいに拭いて、蹄(ツメ)には黒の靴墨を付けて磨いた。そして学校を休んで延岡の家畜市場まで行き、順番がくると牛を牽いて入場し、高値で売れることを祈った。当時は10万円ほどのセリ値が付いたと思う。学校の欠席理由は覚えていない。

  前述したが「宮崎牛」は稀少食材である。黒毛和種の肥育素牛の平均セリ値は、現在50万円を超える。セリ時の体重が約300キロで、それから15~20ヶ月肥育し、体重が約600キロで屠場行きとなる。肥育牛の生体価格が約80万円であるから、高騰している飼料や燃料、それに手間を考えると「牛肉」は本当は安い。「松阪牛」や「但馬牛」、「前沢牛」、「米沢牛」、「近江牛」などのようにブランド化し、通常の肥育牛の数倍の値が付かないと儲けは出ない。

  ブランド化には、餌へのこだわり(稲ワラやフスマの品質、大豆粕などの給与、松阪牛はビール・山形県の「米沢牛」はリンゴを与えるという。)、川(水)など周辺の環境、牛舎の環境(床の清潔・快適性、日の射し具合、1頭当たりの飼育面積など、要はストレスを避ける=「家畜福祉」)、周囲の仲間をリードするカリスマ的農家の存在など、幾つかの要因が重要とされる。

  このところの「船場吉兆」の食材偽称問題は、「宮崎牛」、「佐賀牛」などのブランドに追い風だ。日本屈指の代表的和食屋に出入りする美食家あるいは食通も「但馬牛」と、「佐賀牛」や「鹿児島(かごんま)牛」との識別が不可能であったのだ。和牛の鉄板焼や網焼、鋤焼も多分に登場したであろう。調理して提供する「迷店」もその差のないことを十二分に承知していたことになる。「松阪牛」も「但馬牛」も「前沢牛」(岩手県)も「近江牛」も・・・・・、「佐賀牛」、「鹿児島牛」、そして「宮崎牛」も遜色ないと言うことが周知されたことに他ならない。「宗谷黒牛」や「石垣牛」なども時を置かずして追随するであろう。

  こう考えると、最高級和牛肉は既に完成した食材と言えなくもない。私見を言うと「肥後の褐牛」の赤身が旨いと感じる。阿蘇の自然の「青草」の匂いが何ともいい。和牛ではA3のモモ肉、とうがらし、ハラミ、ミスジ、ランプなどが所望とするところだ。「霜降り」と反対の観点からブランド化できないものかと、考えてしまう。宮崎の野山で十分の野草(ハーブ)を自由採食し、大きくそして健全に発達した絨毛をもつ第1胃(ルーメン)で消化・反芻された食物繊維が、豊富なプロトゾア(原虫)と細菌叢により良質の栄養素を生み、それが筋肉へと運ばれる。アメリカの様にはいかなくても、少なくとも北海道張りの放牧はできないものか。焼酎粕(甘藷)や大豆粕(オカラ)なども利用できよう。水も旨いし、日も射す。その気になれば、稲わらも木屑も不自由しない筈だ。生産技術も折紙付きだ。霜降りに頼った「宮崎牛」から、旨味に重点を置いた「自然宮崎牛」への転換はできないものか、など・・・など。将来の超高齢化、健康食ブーム、脱メタボ、世界的食料不足などを考えると、根本的な飼養形態の見直しが必要ではなかろうか。「温故知新」と「最新の知見で自然(昔)に帰る」ことの観念をバランス良く併せ持つことが、これから益々必要だ。当然、楽はない。

  小学生の頃、「牛の仔市(うしのこいち)」(田舎では今でもこう呼ぶ)の帰りに親が買ってくる「みやげ」は決まってバナナであった。20本位が房となったのが、決まって2房であった。男兄弟3人で腹一杯喰った。当時バナナはその位貴重であった。牛様様の話だ。だが・・・・・、親牛と離別した仔牛は家畜市場で泣きっぱなしであった。目には泪を見た。家に帰ると1週間は親牛が泣いた。改めて、牛達にモーモーモー・・・モー烈感謝しなくては、罰が当たる。  

先頭へ